2009年12月17日木曜日

外国語習得

第二言語習得研究 (Studies in Second Language Acquisition) の研究分野 1960年以降

1940年代 行動主義的学習観 オーディオ・リンガル法(米国ミシガン大学 Charles Fries提唱)第二次世界大戦で米軍兵士に基本的日常会話を習得させる必要

1950年代に 有効な指導理論としての価値を失う

コミュニカティブ・アプローチに対し、
 ある程度の文法を確認していく、文の構成を意識化していく作業の必要性が言われる

インプットが絶対であるという主張に対し(クラシェン、1970年代後半に理論提案)
 それだけではなくアウトプットしながら習得していくものである

構成主義からのアプローチ
 学習者が自ら学習を構築していくものである、という考えに対し、回答を示すモデルを提示する必要性が主張

結論
 第二外国語学習に関する絶対的な方法が存在するわけではないが、おおよその教授法に関しては固まりつつある。少なくとも、順番に読ませて(時間内インプット量を考えると大変効率が悪い)文法事項を説明するだけの授業でないことだけは確かとなりつつある。

「初期の段階から身近な内容について意味と形式の両方に注意を払って自然なコミュニケーションをしていけば(筆者注:インターアクション)、比較的短期間で、『限られた文法、単語を使って、限られた内容について』流暢なコミュニケーションができるようになります。」(白井恭弘 2008 『外国語学習の科学』 東京:岩波新書)

OECD人としての基礎能力の定義

OECDに設置された通称、DeSeCo* Projectは、成人した人間が備えておくべき基礎能力を定義し、選定する研究を行い、その成果を発表している。

*Definition and Selection of Competencies: Theoretical and Conceptual Foundations

D. S. Rychen, L. H. Salganik. Key Competencies for a Successful Life and a Well-Functioning Society. Hogrefe Publishing GmbH, 2003(邦訳:ドミニク・S・ライチェン、ローラ・H・サルガニク編著、立田慶裕、他、訳、OECD DeSeCo 『キー・コンピテンシー ?国際標準の学力をめざして』明石書店、2006年)

OECD, DeSeCo. The Definition and Selection of Key Competencies. Executive Summary. 2006 (邦訳は上記翻訳書に所収)

http://www.deseco.admin.ch/bfs/deseco/en/index/02.parsys.43469.downloadList.2296.DownloadFile.tmp/2005.dskcexecutivesummary.en.pdf


DeSeCo Projectが選定し、定義した、人間が備えておくべき基礎能力は、以下の通りである。

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能力領域1:さまざまな手段を使って自分を取り巻く環境と関わっていくことができる(Using Tools Interactively)

A.言語・シンボル・テクストを使って自分を取り巻く環境と関わっていくことができる
B.知識や情報を使って自分を取り巻く環境と関わっていくことができる
C.技術を使って自分を取り巻く環境と関わっていくことができる

能力領域2:多様性のある集団の中で他者と交流することができる(Interacting in Heterogeneous Groups)

A.他者と良好な関係を保つことができる
B.他者と協力し、チームワークができる
C.対立をコントロールし、解決することができる

能力領域3:自立し、また自分を律して行動することができる(Acting Autonomously)

A.常に大きな枠組みを念頭に置きながら行動することができる
B.自分の人生のゴールとそれまでの道筋を考え、やりたいこと、やるべきことを考えて実行していくことができる。
C.さまざまな権利、利益、制限、要求を擁護したり主張したりしていくことができる

外国語学習は、ここに提示された3つの能力領域の全てに関わっている。

まず能力領域1では、まさしく言語・シンボル・テクストを使える能力の必要性が指摘されている。各個人を取り巻く環境が国際化し、多様化した現代において、ここでいう言語・シンボル・テクストは、母語はもとより、多様な言語を意味すると捉えるべきである。

次に能力領域2では、多様性のある集団の中で各個人が活動することを前提としている。ここでいう多様性には言語・文化の面で多様である集団、自分の母語や母文化とは異なる集団が含まれることは言うまでもない。そのような集団の中で他者と関わり、協力し、対立が生じた際にはこれに適切に対処するためには、母語以外の多様な言語の能力が求められることは明白である。

最後の能力領域3は、社会の中の個人としての自覚とそれに基づいた行動ができる能力について述べている。こここでいう大きな枠組みとは、さまざまなレベルの社会を指しており、そこには自己の出身社会と異なる社会あるいは人類社会全体が含まれる。そのような大きな枠組みの中で自己実現を行い、権利を認め合い、利益や要求を尊重し合い、制限を互いに受け入れる際に、母語以外の多様な言語の能力に裏打ちされた他者への共感と意思疎通能力が必要となることは明らかである。

このように、現代世界に生きる人間に求められる基本的な能力は、多様な言語の能力を前提として獲得が可能だということができる。生涯学習の一端を担う高等教育の目標が、人間としての基本的な能力の涵養であるとするならば、高等教育において多様な言語を学習する機会を提供することの重要性は、自明のことと言えよう。

また、DeSeCoプロジェクトの報告では、基本的な能力の基盤としての省察の重要性を強調して、次のように述べている。

各個人が常に省察を伴いながら考え、行動することがここに提示する人間が備えておくべき基礎能力の枠組みの中心をなす。省察ができるということは、ある状況に対峙した際に何らかの公式や方法を機械的に適用することができる能力にとどまらず、変化に対応し、経験に学び、批判的な視点から考え、行動することができる能力を持つことを意味している。

ここで述べられている「批判的な視点」というものは、多様な言語の能力の習得と使用を通して獲得されるものである。母語の発想に囚われない、あるいは「当然必要だ」とされる英語の発想のみに囚われない、より多様で批判的な発想の獲得のためには、母語や英語にとどまらずより多様な言語の能力の習得と使用の経験が重要である。